「教室で学ぶワークルール」 (旬報社)
筆者:道幸哲也(NPO法人職場の権利教育ネットワーク代表)
これから社会に旅立つ若者に、「労働法」を学ぶ機会を準備することは非常に重要なことです。また、「学校」という特別な社会に働く教師たちにとっても、「労働法」を学ぶことは、1人の労働者として大切な事です。
私たちは、労働者としての権利を守りたいという要求から、富山高教組という組合に参加しています。組合があることで、賃金などの苦しいたたかいの中、今まで多くの権利を勝ち取り、働きやすい職場が形成されてきています。しかし、職場の雰囲気や組合参加の意識つまり我々の権利意識によっては、せっかく勝ち取ってきた権利も損なわれている場合が少なからずあります。我々教員は、この権利を守ることで、いきいきと自分らしく働くことができ、その姿は子どもたちの学びにも大きく影響を与えます。
子どもたちが社会に出て、自分らしくいきいきと働けることは、社会に必ず反映され良い結果を社会にもたらすはずです。まずは、「自分たちがどのような権利を持つのか、どのような法律で私たちの権利は守られているのか。」知ることが大切です。現実社会の中で生きていくために、「法律知識は自分を守る力」となり得るのです。
そんな思いで、この本を手に取って、教室で子どもたちとともに「ワークルール」を学んでいただきたいと思います。
本の冒頭「はじめに」より
これから社会に出るキミたちへ これから社会に出て働こうとするキミたちは、いまの社会をどのように感じているのでしょうか。出口のない息苦しさや、将来への不安をつのらせる人も多いだろうと思います。とりわけ、就職のことを考えると、すぐ先の生活プランができないだけではなく、10年後の自分もイメージできない状態でないでしょうか。「いい大学からいい会社へ」という人生コースは必ずしも人の幸福を意味しませんが、ではどうしたらいいのかといわれると答えに困ります。キミたちが直面する就職の現状をみてみると、正社員(このことば自体が差別感を助長していますが)として就職することは簡単ではありません。多くはパートなど雇用関係が不安定な非正規というかたちでしか仕事につけない状況です。また、たとえ正社員として就職できたとしてもさまざまな問題に直面します。長時間労働にともなう過労死や、ハラスメントによる「うつ」などのメンタル問題です。さらに、会社に勤め続けても、かつてのように賃金が上がっていくわけでもありません。雇用の不安定さや労働条件の低下などを見ると、ますます非正規と正規とのボーダーがはっきりしなくなっています。とはいえ、多くの人は働かなければ生活していけません。当面は親にパラサイト(寄生)することができても、親がいつまでも元気でいるわけでありません。自分で生活し、家族を持ち、次の世代に社会をつなげる必要があります。働くことを避けてはいられないのです。憲法27条は「勤労」を国民の義務としていますし、国も若い人たちの雇用の実現や勤労観の育成に本気で乗り出しています。ところが、社会人として働きだす前に、職場でのワークルールについてはほとんど教えられていません。公民の授業では、受験レベルの表面的な知識しか教えられておらず、ワークルールの意味や使い方までは深められていません。たしかに、新学習指導要領では、法教育やルールについての教育も重視されはじめています。しかし、ワークルールについてはそれほどではありません。また、キャリア教育が必要だとの議論は盛んですが、どのようにキャリアを形成し資格を獲得するかが中心であり、働くさいのルールについてはほとんど関心を持たれていません。むしろ権利を主張すると就職に困るとさえ思われているのではないでしょうか。働くことが国民の義務ならば、安心して働き続けるために必要なワークルールを身につけておくべきでしょう。本来、ワークルール教育は国の責任ですが、現状では自分たちで学んでいくしかありません。
さらに労働法の恐ろしい改正を狙う動きをお知らせします!
「残業代ゼロ法案」(!?)なんて呼ばれる労働基準法の改正案が4月3日に閣議決定されてしまいました。今国会で審議され成立すれば、来年4月から施行されます。改正案の柱は次の2つです。
1、「高度プロフェッショナル制度」:高収入の専門職について労働規制から外すというもの
対象は「高度の専門的知識を必要とする業務」。研究開発や金融ディーラーなどの専門職が想定されています。年収要件は、1,075万円以上です。※本人の合意の下で適用されると、残業代だけでなく、休日・深夜の割増賃金も支払われなくなる。政府や経営者は「賃金は時間でなく成果で決まる。時間に縛られず柔軟に働くことができる」とし、年104日以上の休日を義務付けてはいるものの、土日以外は無制限に働かせることが可能で、過労死基準を超える長時間労働にお墨付きを与える内容です。年収要件は「平均給与の3倍を上回る」として省令で1075万円以上とする方針ですが、経団連は「400万円以上」を求めており、引き下げられるのは必須です!
※「本人の合意」の問題点
「本人の同意を必要とする」という規定を設けているので、原則上は、「本人が希望しない場合は適用しない」とされています。しかし、現実には、「この制度を受け入れなければ昇進はないですよ」と言われて拒否できるでしょうか?一人ひとりの労働者と企業との力関係をみたら、同意せざるを得ない。だから、労働法があるのです。同意を要件にするのは、労働法の存在意義の否定と言えるでしょう。
2、「裁量労働制の適用拡大」:「みなし時間」を超えた分の残業代が支払われないことが拡大し、一般の営業職でも長時間労働を強いられ、年収ダウンになる恐れがあるというもの
対象者:「専門業務型」「企画業務型」「課題解決型提案営業」「裁量的にPDCAを回す業務」
「専門業務型」では、新聞雑誌の編集、テレビ、映画のプロデューサー、コピーライター、ゲーム開発、弁護士など19職種
「企画業務型」では、企業の重要決定を行う本社などで企画、立案、調査、分析を行う人たち
「課題解決型提案営業」では、「取引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の企画立案を行い、当該ニーズに応じた課題解決型商品を開発の上、販売する」業務
「裁量的にPDCAを回す業務」では、「全社レベルの品質管理の取り組み計画を企画立案し、当該計画に基づく調達や監査の改善を行い、各工場に展開し、その過程で示された意見等をみて、さらなる改善の取り組み計画を企画立案する」業務
こんなに広い範囲に適用されるのかと驚いてしまう。入社1年目でも、これらの業務を行うことは多いはず、このまま法改正されれば、ホワイトカラーのほぼ全員がこの制度の適用に含まれる可能性がある。
By MTI