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<生徒にすすめたい本>社会の真実の見つけかた

真実の見つけ方『社会の真実の見つけかた』 堤 未果 著  岩波ジュニア新書

 堤未果さんの著書『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』『ルポ貧困大国アメリカ』『政府は必ず嘘をつく』はよく知られています。最近では、『沈みゆく大国アメリカ』が話題になっています。堤さんは、アメリカで留学、勤務し、9.11に遭遇したことで、「アメリカという国を自らの目で見つめよう」とジャーナリストに転身。常にアメリカを追いかける日本にとって、彼女のルポはあまりに衝撃的です。アメリカの数年前の姿がまさに日本の姿。9.11後のアメリカと3.11後の日本はよく似ているとのこと。

第1章「戦争の作りかた」の3つの簡単なステップはこうだ。経済的格差を社会につくり、「学費や医療費などの援助が得られるよ」と貧しい子どもたちを軍へ導くのです。徴兵制がなくても兵士はいくらでもいることに。利益を優先するマスメディアを巧妙に使い、テロなどの情報で恐怖心を煽り、戦争が近いとイメージづくり、そして、国民にとって不都合な法律をどんどん作っていくのです。「愛国者法」「落ちこぼれゼロ法」などです。

「落ちこぼれゼロ法」とは、「学カアップにノルマを課し、果たせない学校は退場させる。具体的には3 〜8 年生(日本では小3〜中2 ) に毎年国語と数学のテストを受けさせ、各学校は、12年後に「良」を取る生徒が100% になるよう目標を設定。2 年連続で目標達成に失敗すれば、保護者は子どもを転校させることができる。4 年連続で失敗なら教職員総入れ替え。5年連続なら、閉校か民間委託へ。」というもの。ダメな学校は淘汰され、落ちこぼれはいなくなる。— との目論見でつくられたのですが、この法律は、貧困地区の学校の統廃合など弱者を置き去り・排除し、結局、子どもたちの学習意欲の低下をもたらしました。 学校のランクづけは子どもたちの心を傷つけ、やる気を失わせることに」さらに「テストのための教育が広がり、自分で考える力を失わせてしまう結果に」。

アメリカで破たんしたこの「落ちこぼれゼロ法」を絶賛した首長が、この法律とよく似た条例をつくった自治体が、日本にもありましたよね。

第2章の「教育がビジネスになる」では、日本の教育の未来が見えるようです。アメリカでとんでもない学力ノルマを要求して教師たちを苦しめ、さらに教育予算も減らす政策で、教師の教育環境はますます厳しくなり、教師の2人に1人が5年以内に辞めていき、賃金もベビーシッターより安い時給に。ベンチャー型チャリティーが掲げる効率重視の市場原理で、教師たちは追いつめられ、公教育が消滅し、ビジネスの一つとしての民間学校がどんどん増えていく。ブルックリンの教師の次の言葉が、私たち日本人にとって興味深い。

「国の教育予算削減と学費の値上げ、それにマスコミによる公教育と教師へのバッシング、学校の選択制、こうしたものが目につくようになってきたら要注意です。政府の切り捨て政策やメディアのイメージによって、親と教師、子どもたちがバラバラに分断されないように、しっかり手をつないでいなければダメですよ。」

第4章の「社会は変えられる」では、崩壊した公教育の国アメリカの中で、高い教育レベルを取り戻したバージニア州での若者(バージニア21)の取り組みに、希望を感じます。

「私たち若者は親の世代よりずっと困難な状況に苦しんでいる。なのに政策決定のテーブルに、私たちの代表がいないのはおかしい」と、彼らは若者の声を政治に届けるために、学生によるPAC(政治資金委員会)を設立し、学費や教科書代の高騰、就職難、・・など若者の直面する問題の解決に取り組んでくれそうな政治家を選び、彼らのために資金集めを始めたのです。「これらの銅貨1枚1枚には、大学で学びたいという若者1人ひとりの願いがこめられています。・・・今赤字を抱えるこの州にとって、最高の投資商品があるのを知っていますか?若者の教育ですよ。」と説明して、「1セントの寄付」を求める。こうした彼らの努力によって、翌年バージニア州議会は、教育予算を前年より2億7500万ドルに増額させたのです。

読み進めていくと、「ネットや携帯などの新しい技術を使う」、「英語は最強の武器になる」・・・など若者が、どんな方法や能力を生かして、社会をかえていくことができるのかをさらに知ることができます。

日本に18歳選挙権の制度が導入される日も近い。これからの日本の未来を明るく照らすのは間違いなく若者だと信じます。この本が、若者が社会に巣立つ前の必読書となることを願うばかりです。

by MTI

 

 

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