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「教養」とは何か   阿部 謹也 著  

本1 教養『「世間」とは何か』(講談社現代新書)で「世間」を問うたことで有名な阿部謹也。ドイツ中世史を専攻し、一橋大学学長も務めた。

その阿部が「教養」を問うたのが本書。私が組合活動に専心しようと決意した一つのきっかけになった本である。

 冒頭で阿部は「我が国には二種類の人間がいる」と述べる。それは「建前としての正義や公正の原理を主張する人とそのような主張をする前に正義や公正がどのような条件の下で実現できるかを考えた上でなければ発言しない人である」(10~11頁)。「何が何でも正義と公正を実現させなくてはならない!」という「理想主義者」から見れば、この言葉は「日和見」と見なされそうだ。しかし、阿部の主張は、「この社会において正義や公正を『本当に』実現させるためにはどうすべきか」という現実感から発されている。だからこそ、彼はこの国の「世間」の実態を深く探究した。

 さて、本書で阿部は教養を次のように定義する。「「自分が社会の中でどのような位置にあり、社会のためになにができるかを知っている状態、あるいはそれを知ろうと努力している状況」を「教養」があるというのである」(56頁)。このような人物に成長するためには、「社会をより善くしたい」という強い志と、「世間」という現実を見据えた探究眼を備えなくてはなるまい。

 また、「教養があるということは最終的にはこのような「世間」の中で「世間」を変えてゆく位置にたち、何らかの制度や権威によることなく、自らの生き方を通じて周囲の人に自然に働きかけてゆくことができる人のことをいう」(180頁)と彼は述べる。教養とは、自分だけを高めるものではない。自分が属する社会をより善く変えることが真の教養だ。私はこの言葉にシビレて、未熟ながらも、いま組合に専従している。

 〈評・高木 哲也〉

講談社現代新書・一九九七年・七〇〇円+税

   (14年1月10日)

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