著者は8月の富山高教組夏季学習会での講師の一人。実に明快でテンポの良い講演だったが、この講演の「ネタ本」の一つが本書である。以下に本書から、三つの論点を紹介する。
まず第一点目は、「(現在のキャリア教育)の目的は、あけすけに言ってしまえば、「ストレーター」(=新卒で正社員になる者)を少しでも増やすことである」(27頁)と著者が喝破する点。「どんなに頑張っても、どんなに努力しても、正社員にはなれない層が一定の割合で存在するーこの厳然たる「事実」をどう考えるのか」(146頁)という、現実を直視したキャリア教育が、いま、必要なのだ。そして、この現実を引き起こす原因は、「若者の努力不足」などではなく、「この国の現在の社会構造」にある。社会への視点を欠き、若者に自己責任論を振りかざすだけのキャリア教育は不遜であろう。
論点の第二点目は、「「夢」や「やりたいこと」に拘泥するようなキャリア教育に、いったいどれほどの価値や意義があるのか」(17頁)という点。若者たちに「やりたいこと(仕事)」を見つけさせたとしても、それは「〝底の浅い〟ものになる可能性が強い」(75頁)のである。「仕事には、社会的分業のなかでどこかの「役割」を引き受けるという側面がある」(86頁)のであり、「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」という視点のバランス(87頁)を考えた職業選択が必要だと著者は説く。その通りだ。
最後の第三点目は、社会への目である。「在学中にそれなりに〝骨太の〟労働法についての教育を受けること」(159頁)の必要性を著者は力説する。正社員になっても、理不尽な労働に対する「生きた知」が必要だ。
教育とは、現実を直視した上で、夢を語ることから始まるーそのような思いを新たにさせる好著である。
〈評・高木 哲也〉
ちくまプリマー新書・2013年・780円+税
(13年11月25日)