私たちは、子どもたちがより良い大人に育つために教育を行っているが、「子どもが大人になる」とはどういうことなのか。著者は「自分がかかわっていく関係の世界が広がることだ」(7頁)と述べる。正にその通りであろう。
しかし、現在の教育でそれが保障されているか。著者は「日本の子どもたちに与えられているものは、未来との関係である。(中略)未来のために現在の時間を効率的に消費することがここでは求められている」(8頁)と述べる。ここで言う「未来」とは「自己の未来との関係のなかでいまの自分の時間を消費する」(9頁)という意味であり、「この構造のなかでは、他者はやせ細って」おり(8頁)「自己との関係だけが絶対化されてしまう」(9頁)。つまり、現在の子どもたちは「未来の立派な大人の自分」に成長するためにのみ「いま」の時間を使っているーという指摘が為されているのだ。
さらに、その結果を著者は次のように述べる。「(その結果は)いまの多くの大人たちの姿をみればわかる。何歳になっても自分のことにしか関心のない人間が大量に生まれ、それゆえに高齢者となって仕事をとおした他者との関係がなくなると、孤立と孤独が襲ってくる。個人がバラバラになった社会と、誰にも関心をもたれずに生きることから生じる苛立ち、それがこのような生き方の結論になってしまった。いわば今日の教育は、この方向に向かって子どもたちを「成長」させているようなものだといってもよい」(9頁)。
私たち教員は「子ども自身の未来のために」と子どもたちを学習に駆り立てている。しかし、それによって子どもたちが他者との世界を拡大する機会を奪い、子どもたちの成長そのものを阻んではいないだろうか。子ども時代における、より広い関係性の構築の重要性を痛感した。
〈評・高木 哲也〉『教育』2017年1月号所収、667円+税 (17年4月4日)