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怠惰への賛歌 バートランド・ラッセル 著

 

怠惰への賛歌 10月10日付け本欄で「労働時間の短縮は教育の根本条件ではないのか」(佐藤和夫)を評した。時短は学校現場での大命題だと思う。そこで、佐藤論文で紹介された時短に関する著作をここで評したい。

 本書は15の論文から成る。「怠惰への賛歌」は1932年の作。著者は、まず、近代の技術が、生活必需品を確保するために必要な労働量を甚だしく減らしたとして、「普通の賃銀労働者が、一日四時間働いたなら、すべての人に満足を与え、失業者もないだろう」(21頁)と述べる(但し、著者は急いで「これには、或る極めて適当な分量の気のきいた組織があると仮定しての話であるが」と続けている)。それにもかかわらず、人々は、「ひま」をうまく使ってはおらず、「ひまをうまく使うということは、文明と教育の結果出来るものだ」(同頁)と続く。ここから、本書の標題に使われた「怠惰」とは「ひまをうまく使うこと」の意であることが分かる。

 更に、本書の解説者である塩野谷祐一は「「怠惰」を「ゆとり」という言葉で置き換えてみれば、怠惰礼賛はさほど異様ではない」(268頁)と述べている。思えば、近年、この国の教育界で「ゆとり教育」の急激な盛衰があった。「『ゆとり』とは何なのか」、「何のために『ゆとり』が教育に必要なのか」という本質的な議論が十分になされぬままに、俗流「学力低下論」が幅をきかせた。全く「ゆとり」のない話である。

 ラッセルは、「怠惰」という言葉で現代人の無目的的な過剰労働を皮肉っている。もしも私たち教員が「もっと点数をあげなければ不安だ」という生徒を生み出しているならば、それは私たちの「もっと働かなければ不安だ」という労働構造のせいではなかろうか。このようなことすら考えるひまがないーという生き方は誠に淋しい。

 〈評・高木 哲也〉

平凡社ライブラリー、2009年、1300円+税 (14年10月25日)

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