著者は、日本教育学会会長を務める教育社会学者。これまで、教育政策への多くの批判的考察を行ってきた。
本書冒頭で著者は、「日本の教育と社会はいま、極めて重大かつ危険な曲がり角に立っている。その曲がり角は(中略)政治の暴走によってもたらされている」(2頁)とし、この「政治の暴走」は、「特定の(偏った)理念・価値観や問題・課題の(歪んだ)捉え方を絶対化し、その理念・価値観や捉え方に適合しそうな政策・施策を、その帰結がどうなるかを合理的に検討することもなく、独善的に決定し推し進めようとするところで起こると言ってよいであろう」(同頁)と述べる。安倍「教育改革(教育再生)」の誤りはこの文章に集約されるだろう。
更に著者は、安倍「教育改革」を「教育政策『五本の矢』」として次のように整理する。
①「教科書改革実行プラン」などの教科書政策に見られる国家主義的な「思想統制」②「心のノート」改訂版や「道徳の教科化」に見られる新保守主義的な「人格統制」③「小中一貫教育の制度化」などの「学校教育システムの再編」案に見られる新自由主義的な「教育機会の制度的格差化(制度的・市場的統制)」
④全国学力テストの学校別結果公表や大学入試改革に見られる成果主義的な「教育統制」
⑤教育委員会制度改革により促進されかねない学校現場・教職員の管理主義的な「行政的統制」(以上、19頁)。
本書は、そのそれぞれの問題点を批判的に検証し、安倍「教育改革」への警鐘を鳴らす。
また、本書の最終部で著者は、「お金も人手も時間もかけずに教育が良くなることはない」「教職員の夢と誇りを大切にしない政策は失敗する」と述べる。
私たちは、教育政策を深く学び、声を上げるべき点に対しては声を上げたい。それが生徒たちの未来にも繋がると信じて。
〈評・高木 哲也〉
岩波書店・2014年・1600円+税 (15年1月25日)