「やさしいことばで日本国憲法」
池田香代子 訳 ダグラス・ラミス監修・解説 発行所:マガジンハウス
2015年5月3日で68歳となった「日本国憲法」。現政権が望むように改正されてしまうのでしょうか。今こそ、全ての日本人が、憲法にしっかり向き合う時です。子どもからお年寄りまで全ての人に読んでもらいたいのがこの絵本です。
絵本を開いて左側に、「世界がもし100人の村だったら」の翻訳で有名な池田香代子さんによる新訳条文と正文(現行日本国憲法)が配置されています。ページの右側に、英文で書かれた憲法が並びます。
まず、絵本の冒頭で、池田さんはこう語りかけます。「この国の憲法は、日本人とアメリカ人が知恵を出し合い、力を合わせてつくられたもの。そのときの共通言語は英語だった。だから英語で書かれた憲法が存在するのだ。・・・それを指して、だからこの憲法は日本のわたしたちがつくったものではない、と考える人びとのことは理解できます。けれど、このたび憲法を読み直して、そういういきさつはこの憲法の真価をそぐものなのだろうか、と疑問に思いました。いまわかるのは、この憲法が高らかにうたっているのは、戦争という未曽有の惨事に傷ついた人びとが、命の犠牲を払わされた人々の願いはこうもあろうかと、万感の思いをこめて未来へと託した夢だ、ということです。夢をみた人の国籍を問いますか?それよりも、この夢を託されたのはわたしたちだということ、わたしたちは夢の子どもなのだということのほうが、わたしにはこよなく基調に思えます。わたしたち夢の子どもは、いまなにをすべきでしょうか。まっさらの目で読み直した憲法は、たくさんのヒントをあたえてくれると信じます。」
池田さんの翻訳による憲法と英文憲法を紹介します。
日本国憲法の前文は、まるで、「地球防衛軍」の誓いの言葉のようで感動的です。
前文
日本のわたしたちは、正しい方法でえらばれた国会議員をつうじ、わたしたちと子孫のために、かたく心に決めました。すべての国ぐにと平和に力をあわせ、その成果を手にいれよう、自由の恵みを、この国にくまなくいきわたらせよう、政府がひきおこす恐ろしい戦争に二度とさらされないようにしよう、と。わたしたちは、主権は人びとのものだと高らかに宣言し、この憲法をさだめます。
We, the Japanese people, acting through our duly elected representatives in the national diet, determined that we shall secure for ourselves and our posterity the fruits of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land, and resolved that never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government, do proclaim that sovereign power resides with the people and do firmly establish this constitution.
国政とは、その国の人びとの信頼をなによりも重くうけとめてなされるものです。その権威のみなもとは人びとです。その権威をふるうのは人びとの代表です。そこから利益をうけるのは人びとです。
government is a sacred trust of the people, the authority for which is derived from the people, The powers of which are exercised by the representatives of the people, and the benefits of which are enjoyed by the people.
日本のわたしたちは、平和がいつまでもつづくことを強く望みます。人と人との関係にはたらくべき気高い理想を深く心にきざみます。わたしたちは、世界の、平和を愛する人びとは、公正で誠実だと信頼することにします。そして、そうすることにより、わたしたちの安全と命をまもろうと決意しました。
We, the Japanese people, desire peace for all time and are deeply conscious of the high ideals controlling human relationship, and we have determined to preserve our security and existence, trusting in the justice and faith of the peace-loving peoples of the world.
わたしたちは、平和をまもろうとつとめる国際社会、この世界から、圧政や隷属、抑圧や不寛容を永久になくそうとつとめる国際社会で、尊敬されるわたしたちになりたいと思います。わたしたちは、確認します。世界のすべての人びとには、恐怖や貧しさからまぬがれて、平和に生きる権利があることを。
we desire to occupy an honored place in an international society striving for the preservation of peace, and the banishment of tyranny and slavery, oppression and intolerance for all time from the earth.we recognize that all peoples of the world have the right to live in peace, free from fear and want.
わたしたちは信じます。自分の国さえよければいいのではなく、どんな国も、政治のモラルをまもるべきだ、と。そして、この国のモラルにしたがうことは、独立した国であろうとし、独立した国として、ほかの国ぐにとつきあおうとする、すべての国のつとめだ、と。日本のわたしたちは、誓います。わたしたちの国の名誉にかけて、この気高い理想と目的を実現するために、あらゆる力をかたむけることを。
We believe that no nation is responsible to itself alone, but that laws of political morality are universal; and that obedience to such laws is incumbent upon all nations who would sustain their own sovereignty and justify their sovereign relationship with other nations. We, the Japanese people, pledge our national honor to accomplish these high ideals and purposes with all our resources.
戦争の放棄を誓った 憲法第9条の条文を紹介します。
わたしたちは、心からもとめます。世界じゅうの国が、正義と秩序をもとにした、平和な関係になることを。そのため、日本のわたしたちは、戦争という国家の特別な権利を放棄します。国と国との争いを解決するために、武力で脅したり、それを使ったりしません。これからは、ずっと。
article 9.
Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order, the japanese people forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or use of force as means of settling international disputes.
この目的をまっとうするために、陸軍、海軍、空軍そのほかの戦争で人を殺すための武器と、そのために訓練された人びとの組織をけっして持ちません。戦争で人を殺すのは罪ではないという特権を国にみとめません。
In order to accomplish the aim of the preceding paragraph, land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained. the right of belligerency of the state will not be recognized.
個人の尊厳を守り、国民一人ひとりがその人らしく幸福を追求できるようにすることを保障している条文 憲法13条を紹介します。
すべての人びとは、個人として尊重されます。法律をつくったり、政策をおこなうときには、社会全体の利益をそこなわないかぎり、生きる権利、自由である権利、幸せを追いもとめる権利が、まっさきに尊重されなければなりません。
article 13.
All of the people shall be respected as individuals. their right to life, liberty, and the pursuit of happiness shall, to the extent that it does not interfere with the public welfare, be the supreme consideration in legislation and in other governmental affairs.
憲法改正について、簡単に答えを出さずに、しっかり向き合っていかねばなりません。この本の冒頭にあったように、「この憲法は、戦争という未曽有の惨事に傷ついた人びとが、命の犠牲を払わされた人びとの願いはこうもあろうかと、万感の思いをこめて未来に託した夢です。」この夢を託されたのはわたしたちであり、わたしたち夢の子どもとしての責任として、「日本国憲法」がもし「自民党改憲案」にすりかえられてしまったら、どんな国、社会になってしまうのか、しっかり知っておかねばいけません。 自民党改憲案の一部を紹介します。
戦争の放棄を誓った憲法9条は、安全保障という項目となります。そして、戦争できる国へと大きく姿をかえています。(下線部は現憲法からの変更点です)
第二章 安全保障 ← 第二章 戦争放棄
第九条(平和主義)
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
第九条の二(国防軍)
我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために、国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員が、その職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
自民党改憲案の問題点は、個人の生き方に制限を加える条文を準備していることです。憲法13条を紹介します。
第十三条
全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
憲法13条の大きな変更点に危機感を感じます
現行憲法と大きくかわっている点は、「個人として尊重される」から「人として尊重される」へ、「公共の福祉に反しない限り」から「公益及び公の秩序に反しない限り」へ。現行憲法が大切にしているのは、国民一人ひとりがその人らしく幸福を追求できるようにすることです。しかし、改正案は、「個人」から「人として」尊重される、に変えてしまおうとしています。ここが重大な違いです。「人」たるもの、「国民たるもの」「男たるもの」「女たるもの」・・・・として尊重される、という言い方は個人の生き方を大きく制限するもの。「公益及び公の秩序に反しない限り」というのも、その時の政権の思惑通りにしたいという考えがみえてきます。現憲法13条では、「他人の権利を侵害しない限り、各人が好きな事をしていいんだよ、国は最大限尊重しているよ」と言ってくれています。
まずは憲法を知る、そして、強いもの(現政権など)が、いかに弱い立場のもの(国民)を縛り、強いものにとって都合のよい国づくりすすめようとしているのかを知る、そして、親が子どもを守るように、私たちは、「日本国憲法」を国家権力の企みから守らなければいけません。そのためにも、一人ひとりが意識して行動していくことが大切です。
平和憲法である現憲法が、私たちの知らない間にかえられてしまわないように、憲法をよく知ることは大切です。しかし、「何が大切なのかよくわからない」というのが本心ではないでしょうか。自民党の改憲案は、現憲法がいかに素晴らしいかを教えてくれる対案でもあります。どこがどのように違うのか知りたい方に、ぜひ読んでいただきたいのが、『自民党改憲案を読み解く』(かもがわ出版)著:長谷川一裕 です。まずは知憲からはじめてみましょう。