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高校生アイドルとの憲法講義録から学ぶ「憲法の本質」

「憲法主義」 著:内山奈月・南野森(PHP研究社)

 『朝日新聞』(2015.5.28)の論壇時評「新しいやり方きっとある」の中で、作家・高橋源一郎さんが次のように述べていました。

「(冒頭で)話題になっている、自民党の゛改憲まんが”を読んだ・・・なんかビミョーな気持ちになった。・・・登場する「ほのぼの一家」・・・妻が「憲法改正が不安」と言い出すところから物語は始まり、「敗戦した日本にGHQが与えた憲法のままではいつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ」という曽祖父のことばにみんながうなずくところで終わる・・・(文中で)ところで「ほのぼの一家」はAKB48の内山奈月と憲法学者・南野森の憲法講義『憲法主義』を読んだらいいと思う。すごくタメになるよ。」

ということで読んでみました。憲法を専門的に学んだことのない人にも、憲法の本質を理解することのできる素晴らしい講義録です。18歳選挙制度が2016年夏には導入されるということも考えると、ぜひ学校でも教材にしたい良書と言えます。では早速紹介します。

 

本のスタイルは?

憲法主義 憲法を暗唱する(当時)高校生アイドルの内山奈月さん(AKB48のメンバー・現慶応大学生)が、九州大学の南野教授(憲法学者)から受けた「憲法の講義録」ーがこの本のスタイルです。快活で聡明な高校生と憲法学者との軽快なやりとりのおかげで、憲法の本質に自然と引き込まれてしまいます。途中掲載されている内山さんの講義ノートとレポートは、読者が頭の整理をしながら読みすすめるための大切なツールになっています。

以下の5講座で構成されています。

第1講、憲法とは何か? 第2講、人権と立憲主義 第3講、国民主権と選挙 第4講、内閣と違憲審査制 第5講、憲法の変化と未来 この中から、第2講と第5講を紹介します。

 

第2講「人権と立憲主義」では、人権や憲法のそもそも論が講義されています。

 2人の会話が楽しく憲法に自然に興味を感じさせてくれます。英語の憲法「constitution」と日本の「憲法」の違いが、西洋人と日本人との憲法への認識の違いと気づかせてくれます。

内山さん フランス革命が好きです。「ベルサイユのばら」特にマリー・アントワネットが好きで。

南野先生 マリー・アントワネットはフランス革命の後、ルイ16世と一緒にギロチンにかけられますね。あれは実は憲法の話なんですよ。国王を殺して、国王のいない共和国をつくる革命という思想はまさに憲法の話です。・・・王様があまりにひどい政治をして、われわれの持っている自然権を脅かしたら、それは契約違反だと言えるわけです。ところが、実際には王様は悪いことをする。その悪事の度が過ぎると、「こんな王様もういらない」という話になる。内山さんの好きなマリー・アントワネットの時代がまさにそうでした。・・・・・その頃、アメリカでも同じようなことが起きていました。当時のアメリカはイギリスの植民地です。イギリスの王様は、・・・・・アメリカ人の知らないところで勝手にアメリカ人から税金と取る法律をつくった。・・・・・結局、アメリカは1776年にイギリスから独立を宣言します。フランスでは1789年に革命が起きることになります。 

 18世紀の終わりに、フランスとアメリカでは「人が生まれながらにしてもつ権利」をよりよく保障するため、人権を脅かす国家を倒して、あるいはそこから離れて新しい国家を設立。その時に書かれたのが憲法(constitution)。つまり、憲法の目的は人権を保障することです。憲法の英語「constitute」は「設立する」という意味です。まさにこのとき国家をconstituteすることになった。そのための文章こそが憲法constitutionです。

 日本では「人権」という概念の歴史はほんの100年しかないのです。聖徳太子の「17条の憲法」とあるように、「憲法」という言葉の歴史は長い。しかし、アメリカやフランスで生まれた「constitution」と違って、単なる「法・ルール」という意味しかありませんでした。

 「立憲主義」は、英語で「constituionalism」=「憲法の主義」。憲法を政治の根本に据える主義であり、憲法によって国家を運営していく主義のことです。

 

憲法の「名宛人」は?

南野先生 憲法の「名宛人」ということを考えてみましょう。

内山さん 対象者?

南野先生 なるほど。では、憲法は誰を対象にしているの?

内山さん その国の国民

南野先生 ではないのです。

内山さん えっ?

南野先生 ここが大事なところです。答えから言うと、憲法は国家権力を対象としています。・・・法律とは、そこにいる人々を対象にしているものです。我々国民は、さまざまな法律でさまざまな義務を課され、あるいは権利を制約されているわけです。その一方で、憲法は国家権力を対象者にしています。もちろん、国家権力といっても現実には人です。たとえば内閣総理大臣や国会議員。あるいはお巡りさんとか税務署の職員。こういった、国家のために国家の名前で働く人たちが、国家権力ということになります。

 

「なぜ、憲法の内容に、国民のこと(義務)を盛り込まないのか?」と改憲したい人がしそうな質問には、次のような答えで、本当にわかりやすい。

そもそも憲法は、国家権力を規制するためにつくられたという歴史的な背景が一つ。もう一つは、やはり国家権力を制約するのは非常に難しい。国家権力は強大で賢い。あの手この手で裏道を通ろうとする。だから、国家権力を縛ることに集中する。そして、クラスメートをいじめるなとか、泥棒に入ってはダメだとか、人を殺してはいけませんとか、そういう国民に対する命令は、法律でやってもらうという役割分担になっているわけです。

憲法を変えたいと考える、安倍首相の意図がまるわかりです。(いいね)

第5講「憲法の変化と未来」では、「解釈改憲」や集団的自衛権の問題に迫ります。

集団的自衛権の何が問題か?の講義はこの問題の論点をクリアにしてくれます。

南野先生 安倍首相は憲法9条2項「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」の解釈を変えることで集団的自衛権を認めようとしています。・・・これを整理しておきましょう。じつは集団的自衛権に賛成している人でも、安倍首相がやろうとしている「解釈改憲」には反対という人がいます。・・・安倍首相に反対する立場も二通り考えられます。

内山さん 集団的自衛権そのものに反対という人と、集団的自衛権には賛成だけれども、「解釈改憲」でそれを認めるのには反対という人。

南野先生 ・・・では、なぜ安倍首相は多くの反対があるにもかかわらず、「憲法解釈」をしようとしているのだと思いますか?

内山さん 一刻も早く集団的自衛権を行使したいから

南野先生 なるほど、急いでいるというのは一つの理由。どうして「解釈改憲」の方が早いのですか。

内山さん 両議院に通すのは難しく時間がかかるし、国民投票にも時間がかかる。

南野先生 でも時間の問題かな。

内山さん 改正案を通すのは無理ってこと?

南野先生 無理かどうかわかりません。でも絶対にできるとも言えない。・・・総議員の3分の2、国民投票の過半数、・・・大丈夫かもしれない。でも確実ではない。

内山さん なるほど。解釈を変えるだけなら確実です。

南野先生 そう、憲法を改正するよりも、「解釈改憲」のほうが早いし、簡単だし、確実なのです。

内山さん 安倍首相がやろうとしている「解釈改憲」についてどう思われますか?

南野先生 「解釈改憲」はよくないと考えています。昨日まで集団的自衛権は認めないという解釈だったのに、今日からは集団的自衛権を認めるというのは180度の転換です。しかも、9条の解釈、集団的自衛権の是非はとても重要な問題です。解釈で変えるにはあまりにも重大すぎる問題だと思うのです。

  集団的自衛権の是非は、日本が今後はアメリカと一緒に戦争するかもしれないという大きな選択です。・・・国会でしっかり議論して、国民の判断を仰ぐべきだと思うのです。つまり、集団的自衛権を認めるのなら、憲法改正によるべきです。もしも解釈変更がこれほど重要な問題で許させるなら、悪しき前例になりかねないと思います。

内山さん 他の問題でもどんどん「解釈改憲」を許してしまう?

南野先生 そうなるかもしれません。

南野先生 何度も言うように、憲法は国家権力が縛るものです。もしも内閣総理大臣の一存で「解釈改憲」ができてしまうなら、憲法の拘束力はなくなってしまうでしょう。

内山さん 大問題になりますか?

南野さん いきなり戦争になるというような大変さはないでしょう。でも、武力の行使を禁じた9条の意味がなくなる、ひいては憲法の制約力がなくなるというのは大変な事です。・・・憲法学の観点から見れば、これまで国家権力ができなかったことを解釈でできるようにすることは非常に危ない。国家権力を縛る憲法を、国民の判断を経ずに弱めることになるからです。

 

 

 各講座修了ごとに、内山さんのレポートが出されています。それを読むのも参考になります。そのレポートのほんの一部を紹介します。

 憲法の価値とは、「誰が草案を書いたのか」とか「草案の素晴らしさ」がそれを決めているのではない。その憲法が「その国に根づいているか」、「安定しているか」、「運用されてきたか」ということが、その憲法の価値を定めているのだ。そういった観点から見て、日本国憲法は素晴らしい憲法であると私は思う。

 

まずは、私たち自身が憲法を正しく理解することからはじめましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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