『クレスコ』NO.179 2016年2月号
~18歳選挙権と主権者教育~ (大月書店)
「18歳選挙権が実現し、主権者教育にどう向き合えばよいのか。」という疑問にしっかり答え、私たちに勇気を与えてくれる一冊となっています。「政治的中立」という言葉に、びびってしまいがちですが、課題をしっかりと捉え、私たちがどんな社会を形成したいのか、そのためには、どのような主権者教育を行うべきなのかを考えるならば、明るい方向性が見えてくるように思います。
「18歳選挙権と主権者教育の課題」(大東文化大学の大田政男さん)から
若者はなぜたじろぐのか?
そもそも、18歳選挙制度を多くの日本の若者が待ち望んでいたのかと言えばそうとも言い難いのが現実。日本の若者は過度な競争にさらされており、諸外国と比べて、仲間との豊かな人間的な共同や交わりの中で育まれるべき「自立」「自尊」といった感情が弱くなっています。そのため権利の主体者という意識は育ちにくくなっています。そして、学校、家庭、地域のそれぞれにおいて、子どもたちは、権利と責任をもって行動することよりも、権利を侵害する大人の要求に応えてきたのです。主権者教育は、家庭・地域を含む社会全体の課題であり、学校の教科指導、生徒指導などあらゆる面で課題が多いと言えるでしょう。
「69通達」から「15通知」に
諸外国とは対照的に「69通達」などによって日本の高校生はずっと自治活動や自主的な運動を禁止されてきました。しかし、「15通知」では、高校生に「主体的な選択・判断を行い、他者と協働しながら様々な課題を解決」する能力を育むために、学校教育で「現実の具体的な政治的事象」を取り扱うこと、高校生に校外で政治活動などを認めています。しかし、全体に「指導」「禁止」「制約」が強い内容です。校長の「必要かつ合理的な範囲」で高校生の市民的権利を制限する余地も残されていることや、「教員は個人的な主義主張を述べることを避け」などの文言への変更など問題が多いです。副教材「わたしたちが拓く日本の未来」では、選挙制度や学習方法ばかりが取り上げられ、高校生が主権者となるべく、憲法の「国民主権」の意味や選挙権拡大の歴史などについて扱われていません。これらの問題をしっかり把握して、指導に工夫と配慮が必要となってきます。
これらの諸問題について、全教常任弁護団事務局長の加藤健次さんから、「この国の未来のために共同のとりくみを」という以下の提案がなされています。
かつて、教育をめぐる裁判で、「国家の教育権か、国民の教育権か」が激しく争われた。教育に対する国家の介入が公然とおこなわれている今、教員が、保護者や住民と連携して、教育の主導権を国民の側に引き戻すことが求められている。日本が「戦争する国」に向かって暴走するのか、この暴走を止めるのか、若者たちが人間らしく働き暮らせる社会にできるのか。このような深刻な課題に直面している若者たちが、主権者として未来を切り開いていく主体となることこそが、真の「政治的教養」であろう。
現場の教職員の実践から、大阪の大瀬良篤さんは
小学校で児童会活動を活発にさせるとりくみの中で、子どもたちが主体的に行動するしかけをつくり、「子どもたちが、自分たちで自分たちの学校をよくしていこうとする力を育てる」ことに成功されています。自分が所属している社会をよりよいものにしていきたいと考えること、そして行動する力を子どもたちに育てることが、主権者としての力を育て、「主権者教育」につながるものでしょう。
現場の教職員の実践から、富山の亀澤政喜さんは、
高等学校の授業の中で地域に起きた公害問題を扱っています。厳しい状況の中で住民運動の中心となった人々の、主権者として正義を社会のなかに実現した、その生き様を伝えることで、生徒たちに「主権者とはいかなるものか」を考え、感じ取らせることに成功しています。
全国高等学校PTA連合会長の佐野元彦さんは、
ご自身の学生時代の体験を通じて、生徒たちが学校で主権者として行動するには、生徒を大人として扱う先生方の姿が重要だと指摘されています。佐野さんは今回の選挙権年齢引き下げを、国民全般に対する主権者教育を行うための絶好のチャンスと捉えています。子どもに主権者教育をするには、大人自身が学ぶことが必要となります。このことにより主権者教育の土壌が豊になり、それが子どもたちの教育を支え牽引する力になり得ると。まさにピンチをチャンスにかえる!考えです。しかし、その責任を学校だけに負わせていてはいけない、地域やPTAなどが共に役割を果たすことが重要と指摘されています。
「高校生を信じて」の佐野さんのメッセージをこころに刻み主権者教育にともに立ち向かっていきましょう。
「今後の主権者教育の前途には様々な課題があり、試行錯誤の連続となるでしょう。しかし私は、必ずうまくいくものと信じています。なぜなら、高校生たちは、若さゆえの強い知的好奇心と柔軟な思考力をもち、純粋な正義感に満ちているからであり、彼らを信じて粘り強く教育を継続することによって、高校生の政治的教養が飛躍的に高まることは違いありません。従って、彼らに対して敬意をもって遇することが大切であり、大人の不合理で抑圧的な態度や言説は、若者の反発や社会の不安定を招く要因となる恐れがあります。私たち大人は、過剰な介入や抑圧を避け、理性と知性と経験によって高校生を導かなければなりません。政治的教養を身につけた人々が多数存在する社会は、自浄能力が高い社会に昇華していくことを信じて取り組んでまいりましょう。」
富山高教組では、『クレスコ』を各分会に、分会長さんを通じて毎月届けています。