本書には2016年に行われた対談4編が収められているが、ここではその2つを扱う。
まず、第1章の「戦後の憲法の役割」〈上野千鶴子×佐高信〉での上野の発言。上野は「九条より九章問題だ」(80頁)として、2012年にまとめられた「自民党改憲草案」の第9章「緊急事態」を取り上げる。ここには緊急事態として「内乱」が入っており、「解釈によっては、国民軍は国民に銃を向けることができる」(80~81頁)と述べる。これは重要な発言だ。
また、第4章の「本当の天皇の話をしよう」〈森達也×白井聡〉での白井の発言が面白い。
白井は、天皇の生前退位問題に関して「これは象徴天皇制の危機にたいする今上天皇の反応である」(168頁)と見る。そして、安倍首相が戦後民主主義体制を否定するいま、「戦後民主主義と象徴天皇制がワンセットであるならば、戦後民主主義が危機に陥り破壊されるということは同時に、象徴天皇制が危機に陥り破壊されることを意味するはずです。たぶん今上天皇は、そのことを重く受け止めているのではないかと思うんです」(169頁)と述べる。さらに白井は「おそらく天皇は退位することによって、象徴天皇制を再活性化させ、それによって間接的に戦後民主主義を救い出そうとしているのではないでしょうか」(170頁)と続ける。白井は、現在の日本の危機を「戦後民主主義の危機」とともに「国民統合の危機」(171頁)と見、「国民が何らかの意味で統合されていないのであれば、その象徴たる天皇は存在し得ない。天皇のお言葉には、それにたいする警告を発するという意図もあるのではないか」(同頁)と述べる。
白井のこの見方は面白い。しかし、私は、天皇制それ自体に反対する者である。戦後民主主義の危機は、天皇ではなく、私たち国民が解決すべきだ。それが真の民主主義のあり方だろう。
〈評・高木 哲也〉 ちくま新書・2017年・780円+税 (17年6月1日)