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『文部省の研究』 辻田 真佐憲 著

 文部省がスタートしたのは1871年。設置の目的を著者は「『理想の日本人像』探求のはじまりでもあった」(15頁)と説く。「理想の日本人像の探求」と言うといかにも胡散臭いが、筆者は「『理想の日本人像』は、特定の思想をブーストするための装置ではなく、特定の思想の暴発を制御する安全装置として位置づけられるべきである」(253頁)と述べ、「『理想の日本人像』は、このように立憲主義を守らんとするものであってもよいのだ」(254頁)と続ける。

 さて、著者は本書で明治から現代までの「理想の日本人像」の変遷を以下のように示す。

①近代日本は欧米列強への対抗が第一課題であり、普遍主義への対応(近代化)が必要だった。1892年の「学制」がその象徴。

②しかし、国民国家統合推進のために、共同体への対応(国民化)も大切。儒教主義の台頭がその最たる反応。

③1890年の教育勅語で「普遍主義」と「共同体主義」の調和が図られた。「天皇国家に奉仕する、従順で受け身な近代的国民=臣民」が理想の日本人像。

④日清・日露戦争後は、国家の興隆・民族の「安栄」・社会の福祉に貢献することが新たな目標。

⑤昭和に入ると、「天皇に無条件で奉仕する臣民」が新たな理想像。

⑥戦後は「教育基本法」が「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間」という普遍主義的な理想像を提示。

⑦しかし、「普遍主義」への反動がすぐに起こり、「共同体主義」が復活。

⑧高度経済成長期は企業戦士の育成が課題。「責任を持って黙々と働く日本人」が理想像。

⑨その後、「個性とゆとり」が提案された。

⑩現在はグローバリズムとナショナリズムへの対応が基軸となった(以上、248~250頁を要約)。

 この150年間の教育の変遷を、「『普遍主義』と『共同体主義』の相克と調和」と見る著者の考え方は如何にも面白い。

 〈評・高木 哲也〉 文春新書、2017年、920円+税 (17年8月10日)

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