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『対話する社会へ』 暉峻 淑子 著

 著者は、名著『豊かさとは何か』(1989年、岩波新書)を著した経済学者。本書冒頭で「戦争・暴力の反対語は、平和ではなく対話です」(ⅰ頁)と述べる著者は、「平和(平穏な生活)を支えているのは、暴力的衝突にならないように社会の中で対話し続け、対話的態度と、対話的文化を社会に根づかせようと努力している人びとの存在だ」(ⅱ頁)と気づき、「対話のない社会はいつか病み、犠牲者を出し、平和はあるとき、あっけなく崩れてしまう」(同頁)と全身で感じるようになった。

 著者は本書の至る所で対話の意義を説く。「対話はコミュニケーションの始まりでもあり、コミュニケーションの中でとりわけ大きな役割を果たしています」(179頁)、「対話とは、ただの言葉ではありません。その人が持つ、人柄、対話的な態度と生き方なのです」(182頁)、「対話は、結論を無理に出す必要がなく、対話の過程での新しい発見や思考にこそ意味があります。結論を一方的に与えない。他人の意見を聞くことで、考えを深める」(189頁)など。

 学校教育に関しても発言がある。「学校の先生たちがタテの管理に縛られるようになり、職員室に対話がなくなってから、子どもと先生の間にも対話的空気が薄くなり、学校の空気は酸欠状態になっています」(66頁)、「対話がなくなれば、対話の代わりに、命令と監視が支配するという現実がやってきます」(140頁)、「日本の文部科学省の姿勢は、一方では『アクティブラーニング』などと言いながら、自主的な対話型教育を推奨するようには見えません」(190頁)などの指摘は実に重要だ。

 いま、この国の政府は対話や議論なしの独裁に走っている。「対話する社会への努力が、民主主義の空洞化を防ぎ平和をつくり出しているのです」(253頁)との著者の言葉を、いまこそ私たちが肝に銘じるべき時であろう。

 〈評・高木 哲也〉岩波新書、2017年、860円+税 (17年9月1日)

 

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