本年3月、小中学校の新学習指導要領案で、小学校英語の早期化・教科化が告示された。小学校5~6年では英語が評価をともなう「教科」となり週2時間、3~4年では「外国語活動」として週1時間実施するというもの。小学校での英語教育の時数は年間210時間と現在の3倍にもなる。
著者は小学校英語教育の早期化・教科化の問題点と、間違いの原因を分かりやすく説く。
まずは主な問題点が示される(16頁~18頁)。
★指導者の問題。学級担任が英語教育を担当するのがほとんど(93・1%)であるにもかかわらず、基本的に英語教育の免許を持っていない。
★指導者研修のための予算が貧弱。小3以上の担任14万4千人に対して、国が研修を課す英語教育推進リーダーは18年度までにわずか千人のみ。
★一部のエリート(1割と言われる)の育成に焦点を当てた指導要領の構成になっている。これまで以上に英語嫌いが生み出される。
★私立中学入試に英語が導入され、受験競争が低年齢化し、経済格差により教育の機会均等の原則が壊される。
次に英語教育施策の間違いの主な原因が指摘される(18頁)。
◆1割のエリートを育成するために「グローバル人材育成のための3本の矢は、①理数教育、②英語教育、③ICT教育」とする如く(自民党教育再生実行本部2013年発表)、行政施策に子どもの教育に対する深い哲学や思想がない。
◆マスコミや英語教材広告などによって流布する俗説に国民も影響されている。
このような分析に基づいて著者は、「経済政策の失敗なら、やり直しのきくことがあるだろう。しかし教育政策の誤算や失敗では、被害を受ける生徒たちには教育のやり直しはきかない」(16頁)と直言する。手遅れになる前の改善が急務だ。
〈評・高木 哲也〉『クレスコ』2017年8月号所収、476円+税 (17年7月31日)