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『日本の近代とは何であったか』 三谷 太一郎 著

 著者は近代の特徴として、19世紀後半のウオルター・バジョット(英)の考察を援用し、「バジョットの『近代』概念は、『議論による統治』を中心概念とし、『貿易』および『植民地化』を系概念とするもの」(31頁)と捉え、それぞれの概念を本書で詳しく説く。

 これらの概念のうちで特に重要なものは「議論による統治」だ。バジョットに依って著者は、「いかなる国民も一日にして『議論による統治』を生み出すことはできない(略)。政治を動かすだけの質の高い議論は、それに対するさまざまの疑念にさらされ、検証されることによってはじめて形成されます」(13頁)と述べ、「『近代』においては政治の形態が変容し、行動よりも思考(熟慮)が重要となり、その意味では、性急な能動性よりも、静謐な受動性がより多くの価値をもつようになるのです」(25頁)とする。十分な審議なしに共謀罪法案を強行に成立させた現在の日本政府のやり方は、「議論による統治」の精神から全く逸脱していると言えよう。このような乱暴な政府は「近代」政府ではないのである。

 さらに本書では近代天皇制が論じられている。著者は、「明治国家の設計者たちが『近代化』を『ヨーロッパ化』として行おうとした際に、ヨーロッパの原点に『神』があると認識した(略)。天皇はヨーロッパの『神』に相当する役割を果たさなければならないと考えた(略)。現実の天皇は『神』に代替することはできません。そこで(彼らは)天皇を単なる立憲君主に止めず、『皇祖皇宗』と一体化した道徳の立法者として擁立した」(251頁)と述べるも、「立憲君主としての天皇と道徳の立法者としての天皇との立場の矛盾は消えることはありませんでした」(241頁)とする。「日本の近代とは何であったか」という著者の問いは実に重い。

 〈評・高木 哲也〉岩波新書、2017年、880円+税 (17年7月3日)

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