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「幼児期の「道徳教育」と保育における「応答性」」 大宮 勇雄 著

 本論文は雑誌『教育』10月号の特集「どうする教科『道徳』」に寄せられた。来年度から実施される幼稚園教育要領・保育所保育指針への批判が語られ、幼児を対象にした「道徳教育」の2つの問題が取り上げられている。

 1つ目は、「子どもが要求にもとづいて行動したり、自己主張したりすることが『否定的に』とらえられている」(14頁)という問題。先の「要領・指針」には「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が規定され、その1項目として「道徳性・規範意識のめばえ」がある。著者はこの項目の問題点を、「自分の要求・主張をそのままぶつけたり、その結果相手と対立したり、あるいは『きまり』への反発や抵抗となってしまったりすることが、『やってはいけない』とされている点にある」(15頁)と述べる。「『やりたいこと』を棚上げしていつも『しなければならないこと』をやるように」(15頁)という教育は間違っている。著者は、「自己主張のないところに、自己の要求と他者の要求との対立・葛藤を経験しないところに、真の道徳性は育たない」(16頁)と断言する。

 問題の2つ目は評価の問題。今回の改訂では、「子どもの育ちを『評価』することが目標達成のもっとも効果的な手段である」(18頁)とされたが、「『評価』はたいていの場合、著しく不評である」(18頁)と著者は述べる。そして、不評の理由として、「一つは『方法的妥当性』を確保するのが難しい(そのため多大な労力を要する)こと、もう一つは、人間が人間らしくあるために欠かせない人と人との『応答性』―それはまた保育や教育の根本原理であるーを侵食することにある」(18頁)の2点を挙げる。さらに、「いまここで生きている子どもたちにとっての『意味』から切り離して、大人の『上から目線』で子どもの行動を管理統制するための『評価』において、子どもたちの思いや願いは消えてしまう」(21頁)と主張する。

 私たちは、このような「道徳教育」を許してはなるまい。

 〈評・高木 哲也〉『教育』2017年10月号所収、667円+税 (17年10月13日)

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