もう35年も前に発刊された、古い本である。著者は現在71歳。群馬県の公立中学に体育の教員として赴任した24歳のときに頸髄損傷で手足の自由を失ってから、もう50年近くが経った。本書は、著者が口に筆をくわえて文章や絵を描き始めて約10年後の作品集である。
評者が現役教員の若き頃、よく本書を引用して「現代社会」や「倫理」の授業を行った。その折りには、生徒たちに本書の美しい花の詩画を見せながら著者の詩を朗読したものだった。以下に評者の好きな本書の詩を3編引用したい。
動ける人が 動かないでいるのには 忍耐が必要だ
私のように 動けないものが 動けないでいるのに 忍耐など必要だろうか
そう気づいた時 私の体をギリギリに縛りつけていた
忍耐という棘のはえた縄が “フッ”と解けたような気がした
木は自分で 動きまわることができない
神様に与えられたその場所で 精一杯枝を張り
許された高さまで 一生懸命伸びようとしている
そんな木を 私は友達のように思っている
神様が たった一度だけ この腕を動かして下さるとしたら
母の肩をたたかせてもらおう
風に揺れる ぺんぺん草の実を見ていたら
そんな日が 本当に来るような気がした
かつて評者がこの詩を生徒たちに読んだとき、説教や道徳などとは無縁の心境だった。「この世には、こんな人がいる」と生徒たちに、ただただ知って欲しかっただけだった。また、自分のクラスのHRでは、星野さんへの手紙を生徒たちに書いてもらったこともあった。生徒たちの文章は、実に素直であったことを覚えている。
新年の始めに、このような著者の心境を改めて思い返したい。
〈評・高木 哲也〉 立風書房・1982年・1400円+税 (18年1月15日)