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自由論ー倫理学講義  伊藤 益 著

 本書は、著者が2013年度に筑波大学でおこなった「倫理学」の講義内容を出来るだけ忠実に再現したもの。全編が「です・ます」体の話し言葉で記され、あたかも生で講義を聞いているかの感を抱く。「語り口の滑らかさと分かりやすさ」を追求する著者ならではのリアルな講義録となった。

 さて、本書の冒頭で著者は倫理学を以下のように定義する。「倫理学とは行為の善悪に関して、その判断の基準を究める学である」(11頁)。そして、倫理学のもっとも原理的な問題を「自由の問題」と規定する。なぜならば、「倫理学が成り立つには、倫理的な判断の対象となる行為が人間の自由意志にもとづいていることが必須の条件」(13頁)だからだ。

 このような立場から、本書はストア学派、エピクロス学派、ソクラテス、アウグスティヌス、カントの自由観を検証する。この部分は高校社会科の教員には実に勉強になる。

 しかし、本書の真骨頂は結章の「日本人と自由」にある。筆者は、自由の問題が「いまここに生きるわれわれ」にとって「どのように在り、どう在るべきか」を常に問い続けている。例えば日本国憲法に関して、「(自由と平等を)圧殺しようとする政治権力に対しては、断固として「否」を突きつける構えが必要でしょう。その構えができたときに、現行憲法は生き生きとわたしたちの精神のうちに息づくのです」(187頁)と訴える。また、「日の丸・君が代」の強制に関しては、「子どもは大人の玩具ではありません。道徳的判断ができる段階に達した子どもたちには、社会的な言動に関する自由が保障されるべきです」(188頁)と喝破する。正に現代に生きる自由論だ。

 私は、かつて自由に憧れて組合に加入した。その私にとって、本書は、自由の意義を考える絶好の書となった。

 〈評・高木 哲也〉

北樹出版・2014年・2300円+税    (14年4月25日)

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